古森(ふるもり)の図書室

森の奥に居場所を探して...

お宮の湧水

「お宮」と表現していいものか、迷ってしまうほどの小さな場だったけれど・・・
 
子供の頃、近くに美味しい湧水の出るところがあって、よくそこで水を飲んでは、鳥居の周りを潜って遊んでいた。
 
・・・鳥居?
そうだ。
鳥居があるからには、そこは神聖な場だったのだろう。
しかし、本殿も何もない、
ただ、石の鳥居があって、そこを入ると
家、1軒分の広さぐらいしかないスペースの片隅に
そう、あの頃、まだ小学校の低学年ぐらいの自分でも、調度よい高さにある 水飲み場だった。
黒っぽい岩の上から、こんこんと湧いてくる水が あるだけの場所だった。
 
いつもは誰も居ない、鳥居をくぐったら、その奥に 水の出る岩が あるだけの場所だった。
いつ行っても、岩の間から水は湧き出ていて
 
・・・この水は・・・いつでも、止まることは無いのは・・どうしてなんだろう?
でも、美味しいな。。。どうして、うちの水道の水より、こんなに美味しいのだろう?
 
あっ。
この、黒っぽい石から出てくるから、美味しいのかな。
なにか・・・石に美味しさの「もと」が含まれていて、そこを水が通って出てくるから、美味しいのかな?・・・
 
なんて、子供心にも不思議だったけれど
 
今、思うと あれは 地下から湧いてきた、湧水なのだろうと想像がつく。
 
大人になって故郷から遠いところに行ってしまって
久しぶりに行ってみた時には、
石の鳥居は 元のままに、あったけど
湧水のあった処は・・・
 
水は・・枯れていた。 何か、水道の蛇口みたいなのには、なっていたけれど・・・
蛇口に変わっていた、ということは、しばらくは水は湧いていたのかな?
でも、あの水の美味しさは
黒っぽい石の間から出てきたからこそ、美味しいんだと思っていたから
水道の蛇口に変わってしまった光景は、ちょっと寂しかった。
 
今は 地下鉄も網の目の様に張り巡らされ、便利な大都会になったけれど
子供の頃に近所で使っていた井戸も涸れて
ちっちゃなお宮の湧水も無くなって・・・
 
本当に・・・これで、良かったのかな?
 
2度目のオリンピック?
私には・・・ただ、あの最初のオリンピックの後から、
故郷が どんどん、空気の悪い、コンクリートや高層ビルだらけの息苦しい街になってしまった記憶が生々しい。
 
私の子供の頃には まだ都内の下町にだって、草深い庭や鬱蒼と茂る木々のあるお屋敷や
色々と子供がワクワクするような「森」が、あったのだ。
 
そう、そういえば
夏祭りの時には、あの普段は誰も居ない 「湧水の出る」ところに
テーブルが並べられて、近所のお母さんたちがいっぱい集まって御馳走を作っていて
お神輿を担ぐ大人の人たちで、凄い賑やかになっていた!
 
そうか~ あの湧水を使って、お祭りの御馳走を作ることが出来たら、
きっと美味しかったのだろうなぁ。
 
そうだ。
あそこは・・・あの美味しい水の場所は・・・
その、普段は何もない部分のスペースは、
テーブルを並べて町内の人たちが腰かけて食べるのに、
調度良い広さだった。
 
お神輿を担ぐ、大人たちの休憩所に、なっていたのだ。
あの場所で御馳走を食べた大人の男の人たちは、
町内のお神輿を担いで廻ったあと、
最期の日の大きな古いお神輿・・・江戸の偉い殿様が寄付したという、古い重そう~なお神輿も
担ぎに行ったかもしれない。担いで海へ入ったのかなぁ。
 
江戸の時代の頃から、そのお祭りだけは今も続いている。
 
 
 
・・・・・10月にもなって近づいてきそうな(?)台風の影響か、
少しムシムシした夜中に、ふっと目が冴えてしまうと
喉の渇きを覚えたときに
いつも思いだしてしまうのだ。
 
ああ・・あの、子供の頃に飲んだ美味しいお水が飲みたいな。。と
 
あの美味しい湧水の思い出が 蘇ってきてしまう。。。
 
 
・・・・・・・・・
 
10月?
そうだ。この、今いる土地でも、秋祭りの季節が来る。
また、神楽を観に行く楽しみが、待っていた!
 
あの、谷川を挟む両側の山々に響く、笛や太鼓の音色、朗々と響く口上。
夜空の高いところから、それを見守るかのように、(そして一緒に楽しんでいるかのような?)輝く星たち・・・
 
こちらも・・遥か遠い昔から続く祭りなのだ。その日を、楽しみに待っていよう。